言葉の力

 ウルグアイ第40代大統領ホセ・ムヒカ氏は、2012年のブラジル・リオデジャネイロで開催された国連会議で、聴衆に向けて次のように語りかけた。
「貧乏な人とは、少ししか持っていない人ではなく、無限に欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」と。ムヒカ氏は、次のような話しもし
ている。「110年前に比べると人類の寿命は40年延びた。その一方で、我々は軍事費に毎分300万ドルを支払っている。また、人類の富の半分は、
100人ほどの富裕層が持っている」。
 ムヒカ氏の聴衆を説得させる言葉の力は、約13年間にわたる獄中生活にある。彼は、大の読書好で、ギリシャの思想家や儒教に傾倒したが、それ
はただ知識を得るだけだった。知識を得ることと知識を行動に移すこととには隔たりがある。そして、知識と行動とか結びついた時、価値あるもの
へと変化する。獄中で生活している中で、知識が別のものへとどんどん変化していったという。
 ムヒカ氏が言うように、私も言葉が持つ力に何度助けられてきたことか。中学生の時、担任の教師からじめを受けて、毎日、学校へ登校するのが
苦しかった時期、長年にわたる子宮の病気に苦しんだ時、そして、すい臓がんの母を看病して見送った時、その後、続いて認知症の父親を介護と
突然の死を体験した時、身近に助けてくれる人がいなくて孤独にさいなまれた時、本の中にいる「今、生きている人たち」から「既に亡くなって
しまっている人たち」まで、何度となく、勇気と励ましをもらった。
 「知は力なり」だが、自らの体験を通して得た知識と言葉は、体の表面だけではなく、心の奥底にまで沁みるものだ。最近、沁みた言葉の一つに、
「成功の反対は失敗ではなく、何もしないことだ」だった。認知症の父親の介護をしていると、何もせずにはいられない。日々、しなければなら
ないことばかりだった。しかも、それはその時になってみなければ分からないことばかりだった。でも、しなければならないことばかりが山積だ。
うまく事を済ませたい、などと考えているよりは、まずは行動だ。失敗することを恐れて何もしないことよりも、まずは行動だ。
 ムヒカ氏が言うとおりに、私もまた「数々の悩みや苦しみから多くを学んだ。むしろ、いいことや喜びよりも、痛みから多くのことを学んだ」
と思う。「失敗ほど身に沁み」て自分の貴重な体験になる。失敗こそ財産だと言えるのではないだろうか。
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